[00:01.58]「夢はいつか叶う」 [00:03.58]「諦めたら駄目だ」 [00:04.94]そんな綺麗事ばかりが [00:06.67]好きな彼女だった。 [00:08.39]その日いつものように [00:10.17]安いバイトを終えて、 [00:11.95]重いドアを開けても [00:13.54]彼女の「おかえり」は無かった。 [00:16.80] [00:16.80]死んでいた。 [00:18.50]冷たかった。 [00:20.42]綺麗だった。 [00:22.13]可愛かった。 [00:22.85] [00:22.85]傍らには白紙の [00:25.54]遺書が置いてあった。 [00:27.23]物書きになろうと思ったのは [00:29.75]つい最近の話だ。 [00:35.57]彼女の死を僕だけが [00:47.32]知らなかったからだ。 [00:53.18] [00:53.18]その後、 [00:53.92]葬式はいつのまにか終わり、 [00:56.68]僕は元のバイトで [00:58.43]稼ぎながら書いた。 [00:59.95]小説の主人公は、君と同じ名前だ。 [01:03.57]プロのアーティストを目指し [01:05.43]上京した女の子。 [01:06.51]ありきたりな話を [01:08.63]自慢気に書いていた。 [01:10.36]先輩には馬鹿にされ、 [01:12.17]バイト先を辞めた。 [01:13.81]貯めた貯金を糧に [01:15.36]死んだように書いた。 [01:17.20]君のそばに行けるような [01:18.91]気がしたのはまぐれだ。 [01:20.44] [01:20.44]あらすじはこうしよう。 [01:22.35] [01:22.35]「夢はいつか叶う、 [01:24.19]諦めたら終わりだ、 [01:25.89]負け犬にはならない」 [01:27.59] [01:27.59]「私の今までが [01:29.31]報われるその日まで」 [01:30.94] [01:30.94]「私の今までを [01:32.56]勝者だって笑うために」 [01:41.21] [01:41.21]「私の今までを [01:42.79]勝者だって歌うために」 [01:47.69] [01:47.69]もっといろんなものを [01:49.82]書いてみたくなった。 [01:51.07]なんとなく応募した。 [01:53.25]世の中はどよめいた。 [01:54.93]空白で埋もれていた [01:56.65]今までの人生が、 [01:58.50]雨の香りのように [02:00.23]辺りに散らばっていく。 [02:01.80] [02:01.80]金が湧いて人が湧いて [02:03.49]その中で笑った。 [02:05.02]僕はやっと今こそ、 [02:06.89]全て報われたのだ。 [02:18.96] [02:18.96]お金の使い方が荒くなったある日、 [02:21.48]好きでもない後輩との [02:23.42]飲み会で言われた。 [02:25.26]「過去になって良かった」 [02:27.56]「今、幸せそうですね」 [02:30.46] [02:30.46]金があって、人があって、 [02:32.23]女だって捨てるほどいて、 [02:34.42]ああ、こんなものが [02:36.07]幸せだったのか。 [02:39.46] [02:39.46]彼女の遺書が家のどこにも無くて、 [02:42.86]そうだ、 [02:43.37]つい最近何食わぬ顔で捨てた。 [02:46.31]もはや生きる意味と [02:47.71]成り果てた小説の [02:49.72]きっかけなんて小さなものだった。 [02:53.24]変わり果てた家の家具、 [02:54.80]君の匂いは弾けた。 [02:56.59]涙した、崩れ落ちた、 [02:58.37]醜く、苦しく。 [02:59.95]それでも僕だけが生きるのだ。 [03:03.57]金が湧いて、人が湧いて、 [03:05.19]そんな僕の歴史だ。 [03:06.89] [03:06.89]ああそうだ。 [03:07.80]僕すらも知らない [03:09.40]君が死んだ意味を、 [03:11.06]僕すらも知らない [03:12.84]君が生きた意味を、 [03:14.52]僕すらも知らない [03:16.23]君が死んだ理由を、 [03:17.83]僕はずっと白紙の過去に [03:20.21]刻みたいのだ。 [03:27.47] [03:27.47]僕すらも知らない [03:29.04]君が生きた日々を。 [03:30.92]僕だけが知ってる [03:32.48]君が死んだ日々を。 [03:34.15] [03:34.15]「夢はいつか叶う」 [03:36.14]「諦めたら駄目だ」 [03:37.67]そんな綺麗事ばかりが [03:39.47]好きな彼女だった。 [03:40.97]その日いつものように [03:42.90]安いバイトを終えて、 [03:44.61]重いドアを開けても [03:46.11]「おかえり」は無かった。 [03:47.99] [03:47.99]そこにいつものような [03:49.83]彼女の笑顔はなく、 [03:51.50]傍らには白紙の [03:53.09]遺書が置いてあった。 [03:55.01] [03:55.01]彼女の死を僕だけが [03:56.62]認めたく無かった。 [03:58.31]物書きになろうと思ったのは [04:00.51]そんな理由だ。